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2011.08.29

角田光代の「さがしもの」を読んだ

 角田光代さんは、短編の中に様々な本への思いを込めて物語を作り上げている。九つの短編全てが本と絡んでいる。「旅する本」、「だれか」、「手紙」、「彼と私の本棚」、「不幸の種」、「引き出しの奥」、「ミツザワ書店」、「さがしもの」、「初バレンタイン」のそれぞれが本を媒介に世界とつながっている。

 微妙な人の心の揺れを冷静な言葉の積み重ねで淡々と描いている。どれも捨てがたい作品だが、「不幸の種」や「引き出しの奥」などの作品は、こんな生き方もあるんだなと新しい見方を教えてくれた。揺れ動く人の心こそが世の中に陰影を作り上げる。

 また、「旅する本」や「さがしもの」のような不思議な話も面白かった。現実には起こりえない話だが、あっても許せる。自分の心の中で思い込めばあり得る。

 「ミツザワ書店」は作家として生きていく彼女の決意のようなものが見えてくる。何だか、本当にあった事のように感じられる内容。

 「彼と私の本棚」や「初バレンタイン」は、「そうか、この作者って女性だったんだ」という作品。女性としての複雑な気持ちが素直に綴られている。

 「さがしもの」の中にあるこの言葉が印象的。

 「できごとより考えのほうがこわい。それで、できるだけ考えないようにする。目先のことを一つずつ片づけていくようにする。そうすると、いつのまにかできごとは終わり、去って、記憶の底に沈殿している。」

 これって、とても大変な状態に置かれた人の一つの生き方だと思う。特に若い傷つきやすい女性の告白のようなものだと思う。

 最後に「あとがきエッセイ 交際履歴」が付録としてついている。
 
 本とのかかわりの歴史、彼女の人生における交際の履歴のような内容だ。何だか、自分と同じような本との出会いの仕方だ。友だちより本の世界に没頭していたこの作者。

 私も小さいころから本の中に生きてきた。普通の子どもが外で遊んでいる時に本を読んでいた。幼児の時から就職して数年までそんな生活だった。これって、何とか自分を変えたかったのだと思う。今の自分を変えるために必死に読んでいたのだと思う。今のままではいけない。もっと素晴らしい人間になるにはどうしたらいいのかなんて考え、そのヒントになるようなものを懸命に探していたのだと思う。

 結局、そんな答えのようなものは本の中にはなく、自分の生きていく過程で繰り返し試され、行動した事実で自分を作っていくしかなかった。人の書いたものの中に答えを探し、宝物を手に入れたような安易な方法では自分そのものを変えることはできない。

 ただ、演劇やドラマ、漫画や小説、それらの中にある未知の人生に渇望を覚えることがある。あのような人生も自分にあったのではないかという思い。今の自分の人生に悔いはないが、別の選択肢もあったかのように思わせる力がある。

 最近は人生を総括する時期に入ったのだろうか。無性に本を読みたくなる。通勤する電車の中の無駄とも思える時間。揺れと騒音の中で本を読む。これがとても幸せな時なのかもしれない。

 

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コメント

そうですか。人生で一番本を読めるときは、幸せですね。私も新しい本をいろいろ探し回ることが、とても楽しくて、至福の時となっています。角田さんの次の作品を購入してきました。

投稿: take | 2011.09.12 01:21

Takeさんおすすめの本、また大当たりでした。
私はこの一年間、人生で一番たくさん本を読んで本との蜜月を過ごしています❤
『ミツザワ書店』のおばあさんのように本を読んでどこか違う世界に行きたいからなのかな?

角田光代が早稲田の一文に入った時のカルチャーショックの話、おもしろかったですね。作家になるべくしてなった人ですね。

今日は角田光代の『三面記事小説』を借りてきました◆

投稿: mickey♪ | 2011.09.11 22:54

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